ちょびっと険悪 〜シークレット・エンヴィ
                 〜789女子高生シリーズ

          *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
           789女子高生設定をお借りしました。
 


      




 確かに此処は、品のいいお育ちの、天真爛漫なお嬢様ばかりが集う苑であるのだが。生まれてこの方という15年だか16年だか、周囲の方が先んじて折れまくっての、ご自身が法であり正義であり、世界の中心であるという生き方で通して来られたお人も多いので。時間が押してるから、巻きを入れて…とかいう融通なんてのも、全く御存知なかったりするのだし。

 「…だから。どうしてなのかと訊いているのです。」

 この自分へ隠しごとをするなんてどういう料簡なのでしょうかと、そも、隠すという行為自体、疚しいとか後ろ暗いとか、そういうことじゃあありませんの?と。そんな言いようを鋭く翳して、同じ制服姿のお友達を言及している方々がおいで。

 「どうなのですかっ?」

 ついつい気分が高揚、いやさもはや激昂に近いそれとして、盛りに盛り上がっておいでの代表格のお嬢様が、言葉の調子を大きく上げたため、

 「…っ。」

 気の弱そうな少女が一人。皆に庇われていながらも、よほどに怯えたからだろう、ひっと小さな悲鳴を上げる。すると、そんな彼女らと相対していた側の一人が、

 「何ですよ、まるで私たちの方が底意地の悪い人のようではありませんか。」

 非難されたように感じたらしく、どっちが悪いのかはっきりしましょうよと語気を荒くしたものの。だが、そんな彼女へは、身を竦ませた子の背を庇っていた一人が、きつい眼差しで睨み返しており。違うとは言わせぬとも解釈出来そうな険悪さが、見る見る内にも膨れ上がって、場の空気を重くする。そんな中で上位に立とうとしてのことだろ、先程から陣頭に立っての攻撃の手を緩めぬ、巻き髪の女子が再度言い放ったのが、

 「私たちはただ、あなた方が紅バラ様へ、
  三木様へ何をねだっておいでかを訊いているんです。」

 そんな一言であったりし。

 「ただでさえお忙しい紅バラ様だというのに、
  私たちが気づいてからでももう1週間も、
  三木様のお屋敷に毎日向かっては長居をしているそうじゃありませんか。」
 「バレエのある日は、まだお帰りじゃないうちから図々しくも上がり込んで。」
 「誰も知らないと思ったら大間違いですのよ?」

 ほほお…と。何とはなく雲行きも見えてくるよなお言いようを聞いて、だが、踏み出しかけた当事者様の、しなやかに強かに筋肉がついちゃあいるが、どこか華奢な肩を押さえたは、お仲間の小さな手。そして……

  「渡り廊下まで聞こえておりますことよ。」

 ピンと張っての通りがいいお声で割り込んだ存在へ、キッと鋭い視線を向けた一団が、だが。その相手が林田という、やはり勇名轟く上級生だと判ってハッとする。聞こえたという言いようをなさったということは、少なからず詰り合いになってた状況もまた、把握なさっていらっしゃるということであり。問い詰められていた側の、平八には、いやさ、久蔵や七郎次へも馴染みの後輩さんたちが、見るからにホッとしたのもまた、癇に障ったような顔付きの子がいたのへと、

 「何か思い違いをなさっているんじゃありませんこと?」

 わざとらしくも肩をすくめて見せたひなげし様のお言いようへ、それこそ何が何やらと戸惑うように眉をひそめた巻き髪のお嬢さんだったので、

 「彼女たちが きゅ…紅バラさんの、
  三木さんのお屋敷へ足繁く通っているの、
  どうやって あなたたちが知ったのかはさておいて。」

 「……………。////////」

 学園のすぐお隣なんてな位置にある訳ではない三木邸への人の出入りを、彼女らが知っていることのほうこそ不審だと。言外にほのめかしのクギを刺してから、

 「彼女らがバンドを組んでいて、
  今度の学園祭では演奏もすることは御存知よね?」
 「……はい。」

 OGの方々が演奏をなさるのは恒例なことだが、在校生の中からもそんな派手な演目で参加するグループが出ようとは。

  知っていますわ、
  確かQ駅の広場でも演奏しておいでの方々でしょう?

  それって…学校の許可は出ているのかしら。

  出ているらしいですわよ?
  それに、紅バラ様とも仲がよくっていらっしゃる。

  ……え? それって?

  だって、コーラス部の練習前に、
  彼女たちが三木さんへ話しかけているところ、
  一学期によく見かけましたもの。

 こたびの段取りを進める途上にて、そんなこんなが学園内にパッと広まってたことは、平八も薄々感じ取ってはいたようで。演奏するための段取りともなれば、様々な準備や打ち合わせも要ること。それらが包み隠さず公開されていたのだから、彼女らに関するあれやこれやも少なからず広まるのは当然なことながら、

 「三木さんと親しいというの、
  どうしてあなたがたへ、微に入り細に入り報告しなくてはならないのかしら。」

 「それは……。」

 隠し事とするなんて、疚しいことだと少なからず思っているからではありませんの?と、随分と強引な訊きようをしていた彼女らであり。内緒や秘密が全部疚しいこととは限らないでしょうなんてなお説教は、柄じゃあないのでする気も起きなかったものの、

 「あんまり度の過ぎる騒ぎを起こすと、
  はしたないってだけじゃあない、
  あの久蔵殿だって迷惑だと思うに違いありませんことよ?」

 「…………っ。」

 急に様子がおかしくなった久蔵なのへ、顔を見合わせたお友達二人。それでも触らずにおいていいことじゃ無さそうだと察しておれば、今度は手荷物を手早く片づけると、すっくと立ち上がってそのまま歩き出しかかる久蔵殿だったので。

 『……あ。』

 そこでピンと来たのが平八だった。

 『久蔵? 何かが見えたんだね。』
 『……。』

 彼女の視力がずば抜けていいのを思い出し、もしかして建物の中とかずんと遠いところの何かへ、居ても立ってもいられなくなったんじゃあとの察しをつけた彼女であり。そこでと、何か見えたというほうへ足を運んでみればこの騒ぎ。何かというのは、ゆっこちゃんを初めとするバンドの皆の顔であり。何だか剣呑な空気になっているようだと、彼女らの様子からそうと察したらしい。

 「…でもまあ、気になるものはしょうがないですね。」

 我儘と紙一重の、勝手な正義感とやらを振り回していた彼女らを、だが、此処できつく叱っても、その結果、またぞろこちらのお嬢さんがたへ飛ばっちりが向くだけやも知れぬから。

 「この忙しい時期になんでまたと、
  知りたがりの虫が疼いてしょうがないのでしょう?」

 こんの恥知らずがと、ついつい思ってしまってのフライングはどうかご容赦。どうせ、そんな些細な当てこすりに気がつくような、繊細な人たちでもなさそうだしと。ちょっぴり意地悪な心持ちとなりつつも、

 「この皆さんへはね、私たちの我儘を、聞いてもらっているのですよ。」

 そんな言いようをした平八であり。ずばりと内容を言わない、意味深な言い回しだったのへ、え?と目を見張った勝ち気そうな少女らへ、

 「ホントだったら、
  1分1秒でも、ご自分たちの練習に使いたいところでしょうに。
  素人も同然な私たちの、無理からのおねだりを聞いて下さって、
  お付き合い下さっているのは彼女らの方。」

 そういう勘違いをしていたのですよと、やっぱり意味深な言いようを重ねたひなげしさんは、

 「よろしいか? これは此処だけの内緒。
  この人たちが、どうあっても言えぬとして頑張ってたほどの内緒。
  だから、あなたたちも……ね?」

 いかにも“重大な機密ですぞ”と言わんばかりに。鹿爪らしくも人差し指を立てての念を押し、それではとお友達な方のお嬢さんたちを促すと、空き教室をとっとと後にした平八であり。

 「…あの、よろしかったのですか?」

 今こぼした欠片からでも、結構いろいろと洞察は出来る。バンドを組んでる彼女らに付き合わせていることとなると、平八らも何か演奏するのかも…という想像にだって容易に辿り着けるというものだ。そこの辺りを控えめに訊いて来たあいちゃんへ、口許だけでふふんと微笑った平八に代わり、

 「いいの、あのくらいはね。」

 階段の踊り場、彼女らを待っていた残りの二人のうち、七郎次がパタリと携帯を閉じつつそうと言い足す。すぐ傍らには、申し訳無いというお顔をした久蔵もいて。辛抱もたまらず、くすんとすすり上げるサッチちゃんだったの懐ろへと迎え入れ、よしよしと背中を撫でて差し上げて。そんな二人を眺めつつ、七郎次は言葉を続け、

 「あの子たちはどうやら、久蔵殿のシンパシィのようだから、
  外へは意地でも洩らしませんて。」
 「え?」

 品のいい口元を、微妙に快活な形へほころばせ、くすすと微笑った七郎次だったのへ。平八も同じように微笑って見せて。

 「ですからね。久蔵殿に関する情報の、最も美味しいネタじゃないですか。」

 他の人へおすそ分けなんて、想いもつかないに違いないから、案じるほどの漏洩もないハズ。ほんの数日でも、自分たちだけが知るお宝というカッコで、せいぜい優越感を楽しめばいい。あと数日って時間稼ぎには十分な撒き餌になってくれますと。微妙に棘がありそうな言いようをするひなげしさんだったりし。しかもしかも、そんな風だったのは赤い髪のお姉様のみならず、

 「随分と理不尽にもあなたたちを責めてたことは、
  アタシらへも腹に据えかねる仕打ちでしたしね。」

 どうせなら叩き伏せてやりたいところでしたが、と。白百合のお姉様までもが妙に力の籠もった低い声にて並べてから、

 「でもそれでは、同じ泥にまみれるだけですしね。」

 にっこりと微笑ったお顔が、それはそれは晴れやかなのが。どうしてだろうか、ちょっと怖かったのは、

 『……あたしも。』
 『あ、私も思った。』
 『うん。何か怖かったね。』

 サキソフォン担当の、きぃちゃんだけではなかったようで。きれいな花には棘がある。可憐なだけじゃあ生き残れない、そんな時代を生き生きた人たちだってこと、知らないんじゃあ仕方がないけど。


 「久蔵殿が出てくとますますと後難がありそうでしたものね。」
 「そういうことへの機転が利くのだから、
  やっぱりヘイさんの方がよっぽどリーダー格だと思うんですのにね。」
 「何言ってますやら。」
 「だって…。」
 「私の場合、自分に関わりのあることでは頭真っ白になるからいけませんて。」
 「う…。」
 「………。(成程)」
 「それよか、大人が相手の場での事態収拾だったら、
  久蔵殿が一番のやり手じゃあないですか。」
 「?」
 「あ、そうそう、そうだった。」
 「???」
 「だって、一番 押しが効くじゃないの。」
 「ほら、先だってのネズミーランドでの鬼ごっこでも、
  一睨みで取材記者の皆さんを大きく引かせてしまわれて。」


 どのお人がリーダーでもおっかないと思った人、怒んないから手を挙げて。
(笑)





  〜どさくさ・どっとはらい〜  10.11.02.


  *いよいよの秒読みに入った学園祭ですが、
   三人娘がフォロー仕切れてないところでは、
   こういう微妙な衝突や、鞘当てもあるんじゃないかと思うのですよ。
   人気者ならではな、罪なことというか、モテすぎの功罪というか。
   なので、一度くらいは書いときたくなりましたが、
   こうまで性分の悪いお嬢様ってのもそうはいない女学園だと思いますので、
   今後はないかと。
   どか、ご安心を。

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